映画紹介ルポMovie Holic第四回『リリーのすべて』

久々のMovie Holic。お待たせしていた読者の皆様には大変申し訳ございません。筆者イタリアにおり、なかなか更新進みませんでした。イタリア滞在中にあった出来事が、イタリア中部地震。幸い地震の被災地からは免れましたが、「芸術の国」イタリアを色々と見てきたので、後にそちらについても触れようと思います。

さてさて今回は”THE DANISH GIRL”―――『リリーの全て』について。監督はトム・フーパーによるものです。この映画は、冗談が真実になる、笑いが真剣に変わる、不安が確信に結びつく、そして最後にボロボロ泣く。そんな映画。自我と「常識」、そして女性的感性と女性の強さが強く描かれた作品だったと思います。美しい慈愛に溢れる作品とも言えるかもしれません。私なんか作中で何回も何回も感動と切なさ故に号泣してしまいました(笑)

特に伝えたいことは、この映画が、実話を元に作成されたということ。話の基となったのは、リリー・エルベが残した日記。これは1933年に”Man into Woman“という題名で本として出版されています。彼女、リリー・エルベは、男性の身体を持って生まれた女性でした。自分は女性だと自覚し、当時難しいとされていた性別適合手術に果敢にも臨んだ人です。そして、世界史上初めて、トランスジェンダーとして公に認められた人。それまでのジェンダー観を変える一石を投じた人でもあるでしょう。もちろんですが、その当時は身体と心は一体のもの、それが「常識」であり当たり前であった時代でした。事前にそのことを知っている方ならば、1人の人の人生を見ているどっしり感を噛み締めることができるでしょう。しかし、このノンフィクション情報、なんと作品の1番最後に出てくるんです。だからこそ、それを知らない人からしたら、より一層話の重みが増す作品となっています。

さて、この物語は、画家として評価の高いアイナ・ベイナー(後のリリー・エルベ)と、その妻で画家のゲルダを中心に描かれています。主人公は三人。ゲルダとアイナ、そしてリリーです。作中、アイナ、そしてリリーの中では、アイナとリリーは完全に別人として扱われています。アイナが漏らした「僕の中にリリーがいる」という言葉。リリーがゲルダに放った「アイナは消えた」という言葉。ゲルダが嘆いた「アイナを連れてきて」という言葉。身体は男性であることから、それまで常識とされていたジェンダー観で形成されたアイナは、ゲルダのことが大好き。でも、強く生命力を得て表出したリリーの愛情は、ゲルダでなく別の男性に向かいます。1つの身体の中で、人物像が変わっていく様子が、当時の風潮を交えつつ克明に映し出されていました。

特に触れておきたいことは、この作品の中に、【2つの女性像】【絵画】【スカーフ】という3つのポイントがあったこと。それをこれから順を追ってご紹介します。

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hiyori • 2016年9月20日


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