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韓国の女性アイドルグループ「Red Velvet」。同性からの支持もあついこのグループのメンバーの1人アイリーンが、ファンミーティングイベントにて「とある本」を読んだと明かしたことで炎上。現在も議論の渦中に置かれている。
「問題」となった本のタイトルは『82年生まれのキム・ジヨン』。
サラリーマンの夫と1歳半の娘と3人暮らしの、35歳の主婦を主人公に据えた小説だ。ある日彼女は、まるで自分の母親や友人の人格になってしまったかのように振る舞い、周囲の人々を驚愕させる。彼女は育児ノイローゼなのか、それとも……?
『キム・ジヨン』を取り巻くもの
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淡々と描かれるジヨンの生い立ち。「男の子だから」という理由だけで可愛がられる5歳下の弟。就職の、そして昇進の壁。
「女性は育児に専念すべし」という周囲の強い固定観念に抗えず、妊娠後には退職を余儀なくされる……。
キム・ジヨンを取り巻く人々のほとんどは、なんら「差別意識」を抱いていない。
あらゆるところで見られる不平等や差別を「当たり前のもの」として享受している男性たち。
その平和な日常を維持するため、ジヨンは常に「女だから」という理由で我慢を強いられ、そして次第に心を蝕まれてゆくのである。
「ジヨン」という名前は、82年生まれの女性に最も多かった名前だそうだ。
多くの女性から「ジヨンは私だ」と支持と共感を得た本作。一方で、その題材から「フェミニズム小説」と評されることもある。
残念ながら未だ日本語訳されたものは出版されていないが、日本語訳版が出るのが待ち遠しい作品だ。
アイドルは「フェミニスト」であってはならない?
『82年生まれのキム・ジヨン』を「フェミニズム小説」と呼び表すことの是非についてはさておき。
アイドルがフェミニストであることは、あるいは単に「フェミニズム小説を読む」ことは、そんなに悪いことなのだろうか?
ジヨンを批判する男性ファンの多くは、彼女に対して「失望」し、
彼女の「読書履歴」の表明が、ファンミーティングへわざわざ足を運んだ自分たちへの侮辱行為だと考えているようだ。
「アイドル」という言葉は「偶像」を意味する単語に語源を持つ。「アイドル」が現在のような意味を持つに至るには紆余曲折があるのだが、
少なくとも、ある程度の「理想」や「幻想」を押し付けられうる存在であることは間違いないだろう。
とすれば、少なくとも彼ら「アイリーンに怒りを表明する男性ファン」にとっての理想の女性像とは、フェミニズム小説など読まず、
社会に蔓延る差別や不平等に異議も唱えず、「理想の異性」として消費され続けることをよしとする(ともすれば己を「消費してくれる」男性たちに対して感謝の念さえ抱くような)女性なのだろう。
「アイリーン炎上」は他人事か?
儒教の国と呼ばれる韓国は、男性優位・年功序列が深く浸透した文化だと言われる。
だが、今回の炎上問題の原因をその文化に求め、対岸の火事として済ませることは、どうしてもできない。
仮に日本のアイドルグループで同じことが起こったら。
たとえば普段「女性は可愛く弱く頭は悪く、庇護対象であれ」を標榜するような歌詞を歌って踊る少女たちが、その歌詞そのものに異議を申し立てるような意見を表明したら。
果たしてその時我々はそれを受け入れられる社会であるだろうか?
彼女たちを守ってくれる人は、どれほどいるだろうか?
今回の「炎上」は、別の社会の出来事ではないと深く思わされる事件だった。
参考:CINRA