「天然系」なんてとんでもない! 「ワンダーウーマン」は何が凄いのか

2017年8月25日、日本でも遂に『ワンダーウーマン』が公開された。
日本版ポスターに書かれたキャッチコピー、「美しく、ぶっ飛ばす。」のうたい文句通り、爽快感あふれる「王道ヒーロー」物の本作だが、ヒーローである主人公ダイアナが女性である、という部分から始まり、社会で「マイノリティ(=少数派)」と呼ばれる様々な人々の存在を見事に王道ストーリーの中に落とし込んだ作品でもある。

ちなみに、予告では「美女戦士は天然系?」というキャッチコピーもついていたが、これは主人公であるダイアナが人間の世界とは異なる世界で育ってきたが故の世間とのずれであり、彼女自身は豊富な知識を有し、パワーだけでなく頭も切れる女性であることをはじめに言っておこう。

そもそもワンダーウーマンって?

映画『ワンダーウーマン』の原作は「DCコミックス」の同タイトル作品だ。アメリカで覇権を握る漫画出版社は「DCコミックス」と「マーベル・コミックス」の2つで、それぞれ若干作品傾向が異なっている。普段私たちが映画などで触れるヒーローはほとんどこのどちらかの出版社出身と言ってよく、たとえば『アベンジャーズ』に登場するヒーローたちは皆「マーベル・コミックス」出身で、ワンダーウーマンを擁する「DCコミックス」の方にはスーパーマンやバットマンが所属している。

DCコミックスで人気のヒーローたちが一堂に会する『ジャスティスリーグ』のトレーラー。

ワンダーウーマン』が最初に掲載されたのは1941年。第二次世界大戦真っ只中と言って良い。『スーパーマン』が1938年なので、彼の3歳下の後輩にあたることになる。
当時の設定は「粘土にオリュンポスの神々が命を吹き込んで生まれたヒーロー」というものだったが、これはのちに変更された。
ちなみにこの設定変更は映画版のストーリーで鍵を握ることになるので、まだ観ていない人は是非事前情報なしで劇場へ足を運んでほしい。

今回公開された映画版『ワンダーウーマン』は、第一次世界大戦中の世界が舞台だ。ヒーローとしてのダイアナが生まれ育った島を出て人間の世界にやってきたばかりの、未熟だった頃を描いているという。

これはなにも『ワンダーウーマン』や、彼女を始めとするアメリカのヒーローに限った話ではないが、戦時中は多くの「ヒーロー」が「愛国キャラクター」として利用された。
敵国をモデルにしたキャラクターを殴り飛ばしたり、ヘイトを煽るような台詞を印刷したポスターが大量に生産されていたのだ。
映画の中でも、主人公ダイアナは第一次世界大戦に一枚噛むことになる。人間同士の戦争に超人的パワーを持ったヒーローが介入するとなると、一歩間違えれば観ている側が冷めてしまいそうな展開だが、そうはならなかったのが見せ方の上手いところだ。女性だけの島「セミッシラ」で生まれ育ちアマゾン族の女王として育ってきた彼女にとって、人間の世界の戦争は、己の想像とは全く異なるものだったのである。

映画の内容に触れることになるため多くは語らないが、この辺りはおそらく、
『ワンダーウーマン』がかつて、星条旗柄のスーツを身に纏い、多くのヒーローと共に「愛国ヒーロー」としてプロパガンダに加担していた過去を自省する目的もあるのだろう。

戦場に颯爽と現れ、「悪」である敵国の兵士たちをなぎ倒す超人ヒーロー、などという存在は、既にあり得ないものとなったのだ。

「女性ヒーロー」とマイノリティ(=少数派)たち

ワンダーウーマン
『ワンダーウーマン』には、戦争に関する描写以外にも観るべき部分が多くある。それが主人公であるダイアナをはじめとした、数多くのマイノリティ(=少数派)の存在だ。

そもそもマイノリティとは、社会の中で数が少なかったり、経済的に恵まれた立場にいなかったり、といった理由で「少数派」として、社会から顧みられずにきた存在のことを指す。

本作に登場する「マイノリティ」は、たとえば家族も住処も奪われ、今は両軍に様々な物資を横流しすることで生計を立てているネイティブ・アメリカンであったり、戦争のトラウマでアルコール依存症を患っている元狙撃手であったり、あるいは有色人種であるがために俳優になるという夢を絶たれ、詐欺師として暮らしている男であったりする。そしてもちろん、主人公であるダイアナ自身も、アマゾン族が住む故郷の島「セミッシラ」を離れれば「女性である」という理由だけで差別される側、つまりマイノリティになるのだ。

「ヒーロー」という言葉は「英雄」を指す一方でそもそも男性形の言葉だ。女性を呼びあらわす際には変形して「ヒロイン」になるのが正しい。
つまり、「女性ヒーロー」という言葉は、本来は矛盾した表現になるのだ。しかし、映画の中でダイアナは誰よりも強く、最初から最後まで自分の力を信じて戦い抜く、まさに典型的な「英雄」として描かれる。作中で彼女に何度もかけられる言葉「おまえは強い」は、そのまま、この世界で生きるすべてのマイノリティへのメッセージだ。

ダイアナは強い。どんな差別を受けようと、豊富な知識と、そしてもちろん肉体的強さで相手を黙らせてしまう。けれど、彼女のように強くなれないマイノリティもいる。そして『ワンダーウーマン』は、ダイアナが超人的な強さで無双する様子を爽快に描く陰で、そうした「弱いマイノリティ」の存在もきちんと肯定している。
戦っているのはダイアナだけではない、誰もが何かと、自分の人生を賭けて戦っているのである。

圧倒的に強いダイアナと、彼女のようにはなれず、しかし自分の人生を懸命に生きる周囲の人々。
「よくある王道ヒーロー物展開」の中に、両者をうまく落とし込んでいるという点で、『ワンダーウーマン』は「ただのヒーローもの」とは一線を画すると言って良いだろう。

是非読んでほしい、原作『ワンダーウーマン』の魅力

原作『ワンダーウーマン』では長い掲載期間の中、数度に渡ってダイアナの設定が変更されており、2016年からはバイセクシュアル(=両性愛者。男性、女性共に恋愛対象とする人のこと)であるという設定も追加された。

※LGBTって何?

アメリカンコミックの良い部分は、話や時系列が明確に繋がっていないため、どこからでも好きな時に読み始められる点だ。
もしも映画を通して『ワンダーウーマン』に興味を持ったら、ぜひコミック版にも手を伸ばしてみてほしい。

画像引用:DEN OF GEEK!

DCコミックジェンダーマーベルワンダーウーマン映画

Made In Gender編集部 • 2017年8月29日


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